NHKがスクランブル化を積極的に導入しない理由
NHK受信契約については、契約を結びNHK受信料を支払った人だけがNHKのテレビ番組を視聴できる、いわゆる「スクランブル放送」を導入すべき、という意見が根強くあります。しかし、地デジ放送については2013年に導入されたコピー制限の新方式「RMP」が存在するため、スクランブル放送を行うことが技術的に無理なのです。
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NHKのスクランブル化は地デジは無理
スクランブル放送は、有料放送で契約者のみが放送を視聴できるなど、番組視聴を制限して放送することを指します。「スクランブル」と呼ぶのは、アナログ放送時代には画面を細かく分割して並び変え、画面をかき乱した状態で送信したことに由来します。
アナログ時代のスクランブル放送は、専用のデコーダーを用意して契約者のみが正常な画面へ復元できるという仕組みでした。しかし、デジタル時代になるとともにB-CASという視聴制限技術を導入。WOWOWのような有料放送では、視聴契約とB-CASカードのIDをひもづけることで、契約者のみが視聴できるようになっています。
B-CASの仕組みを利用することで、NHKがスクランブル放送を実施すること自体は不可能ではありません。しかし、地デジに関してはB-CASとは別にRMPという仕組みが2013年に導入されたため、スクランブル放送を行うことが現状できない状態になっているのです。
NHKスクランブル化は公共放送に反する
RMPは「Rights Management and Protection」の略で、コンテンツの権利保護、つまりコピーに関する制限を行うための仕組みで、視聴制限機能がありません。現在はB-CASではなくRMPのみ搭載するテレビやチューナーも発売されており、そうした機器向けにはスクランブル放送が行えないのです。
一方、4K・8Kを含むBS放送を受信するテレビやレコーダーにはB-CASやそれを発展させたACASが搭載されています。そのため、現状NHKがその気になれば、技術的には受信料を支払っている人だけ視聴できるスクランブル放送を導入することが可能です。
それでも、NHKがスクランブル化に消極的な理由は、NHKが「公共放送」だという点にあります。放送法で、NHKの役割は「公共の福祉のために、あまねく日本全国において受信できるように豊かで、かつ、良い放送番組による国内基幹放送を行う」と定められています。
NHKスクランブル化に放送法の原則
この公共放送としてのNHKの役割を実現するため、テレビ放送を受信できる視聴者すべてがNHKと受信契約を結び、受信料を支払うことでNHKの運営コストを共同で負担する、というのが放送法の趣旨です。つまり、NHKのテレビ放送をまったく見ないテレビ所有者も、NHKと受信契約を結ぶ必要があります。
一方、NHKが受信契約者だけが視聴できるようにスクランブル放送を実施した場合、放送法の原則が崩れてしまいます。というのも、放送法ではNHKのテレビ放送を受信できる設備を設置した人はNHKと受信契約を結ぶ必要があると定めているため、スクランブルを解除しない状態ではNHK受信契約が不要ということになるのです。
とはいえ、NHKのBS放送については、地デジだけの視聴で十分なのにマンションがBS放送を再送信しているため衛星契約を結ばされる、いわゆる「受動受信」が問題視されています。そのため、地上波はともかくBS放送はスクランブル化を導入すべき、という意見も少なくないのです。