働かないアリは長生き&働きアリは過労死!
琉球大学農学部教授らの研究チームは「働きアリ」よりも「働かないアリ」の生存率の方が高いことを突き止めました。また「働かないアリ」の比率が増えると「働きアリ」はより多く働くようになり、その結果として生存率が下がる「過労死」につながることも発見したのです。
今回の研究では「働かないアリ」の個体の割合をさまざまに変えた小規模コロニーを作成し、均一な条件のもとで64日間飼育しました。実験の結果、「働かないアリ」は一緒にいる働きアリよりも常に生存率が高く、また多くの子を残すことが判明。しかし、「働かないアリ」系統のみのコロニーは子を残すことができないことが明らかとなりました。
これらの結果は「働かないアリ」がただ乗りの利益を得て、世代を経るごとにコロニーの中でその割合を増すことができますが、ついには自らの系統だけになるとコロニーを成立させることができなくなるという、典型的な「公共財ジレンマ」の構造を示しています。
さらに「働かないアリ」の割合が多いコロニーほど、働きアリの個体はより多く巣の外に出て働くようになることも判明。その結果として、働きアリは生存率が低下することもわかりました。仕事の穴を埋めたがための「過労死」ともいえるこの行動は、過去の研究で別のアリでも観察されており、これは協同的な社会において一般的な現象かもしれません。
助け合いの社会がいかに発生するのかは、自然科学と社会科学の両方で重要なテーマ。なぜなら自由な競争のもとでは、自分の利益を犠牲にして相手を助けるよりも、相手からの助けに「ただ乗り」することで利益を得たほうが得だと考えられるからです。
それぞれが行うこの合理的な損得勘定の結果、助け合いは成りたたずに利己的なふるまいが蔓延する状態に必然的に陥ってしまうことが予測されます。この状態が「公共財ジレンマ」あるいは「共有地の悲劇」として知られており、ゲーム理論という数学の道具を用いて予測することができます。
そこで、アリ社会において助け合いがなぜ生じるかを理解することが、私たち自身の社会における助け合いのより深い理解につながることが期待されます。野外のアリでは集団全体の中の「働かないアリ」の割合は非常に低く、いまのところ「公共財ジレンマ」が顕在化する兆候はありません。なぜ野外のアリで助け合いが維持されているかは今後の研究課題です。