アトピー性皮膚炎が治る飲み薬が開発される
「アトピー性皮膚炎」の症状改善に役立つ化合物を、京都大学はアステラス製薬と突き止めました。アレルギーの原因物質が体内に侵入するのを防ぐ皮膚の機能を、回復させる働きがあるもの。今後は体内での詳しい作用メカニズムなどを調べ、早期の実用化を目指します。
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アトピーに副作用の少ない新治療薬
今回突き止めたのは、外部から体を守る皮膚表面のバリアー機能を高める、試薬として販売されている「JTC801」という有機化合物です。培養したヒトの皮膚細胞に加えると、皮膚表面で作られバリアー機能を支えるたんぱく質「フィラグリン」の量が約10倍に増えました。
皮膚には保湿や外部からの物質侵入を防ぐなどのバリアー機能があります。アトピー性皮膚炎の患者は、バリアー機能維持にかかわる表皮細胞のたんぱく質「フィラグリン」が通常より少ないことに注目。たんぱく質を増やす化合物を探索して「JTC801」を特定しました。
さらに、遺伝的にアトピー性皮膚炎になる特殊な家系のマウスに、発病する生後6週間ごろから、この化合物を体重1kgあたり30mgずつ毎日飲ませると、4週間で皮膚の症状がはっきりよくなったのです。
アトピー性皮膚炎は、皮膚のバリアーを抜けて侵入した異物に免疫が反応しておきるアレルギー症状。治療ではおもに免疫反応を抑えるステロイドなどが使われていますが、抵抗力が落ちるなど副作用の問題がありました。今回の研究により、副作用の少ない新しい治療薬の開発につながると期待されます。
アトピーにワクチンを点鼻投与する
このほか「アトピー性皮膚炎」に対して、病原性の低いウイルスに免疫機能を調整する遺伝子を組み込んだワクチンを点鼻投与することでの症状が改善することがわかりました。
これは、三重大学の医学系研究科皮膚科学の教授と同研究科感染症制御医学・分子遺伝学の講師らの共同研究。グループは、病原性が低い非増殖型の「パラインフルエンザ二型ウイルス(PIV2)」に着目。PIV2に、アトピーの免疫を調整するタンパク質「Ag85B」の遺伝子を組み込んだ点鼻ワクチンを開発しました。
実験では、アトピー性皮膚炎のような症状に感染させたマウスに3週間に二度、Ag85Bを組み込んだPIV2と、そうでないPIV2を点鼻や注射で投与。Ag85Bを組み込んだPIV2を点鼻投与したマウスでは、アトピーの症状はほとんど見られませんでした。
免疫が過剰反応しておこるアトピー性皮膚炎は、免疫機能を抑えるステロイド剤を塗る治療が一般的。しかし対症療法に近く、長期投与で色素沈着するなど副作用もあります。ワクチンを鼻の粘膜から取り込むこの方法は、ストレスや副作用が少なく、体質そのものの改善にもつながるという。
また、アレルギー疾患治療研究における薬物の投与方法は腹腔内投与が主ですが、この「PIV2ベクター」を用いた点鼻ワクチンにより、投与時の大幅なストレス軽減、高い安全性、副作用の低下が可能となります。また、将来的に遺伝子免疫療法のツールとして、さまざまな感染症などのワクチンとしての利用など高い汎用性も期待されます。